何冊よめるかな?

本棚の肥やしと化した本たちを供養するため始めたブログ

2018-31 映画を作りながら考えたこと

高畑勲 著『映画を作りながら考えたこと』読了

数年前「かぐや姫の物語」公開記念として、テレビで高畑作品が放映された折に「ぽんぽこ」と「おもひでぽろぽろ」をあらためて観た。ジブリ作品を観るのは実に久しぶりのことだった。それまでどちらかといえば宮崎駿作品の方が好きだったが、そのとき決定的に印象が変わった。高畑勲の世界に圧倒された。そこに描かれていたは「キャラクター」ではなく「人間」だった。「ドラマ」ではなく「生」だった。

今年4月、高畑勲が鬼籍に入った。それであらためて高畑勲の頭の中を知りたくなって本書を手にとった。

本書は題名通り、著者が(ジブリ以前の時代に)さまざまなメディアに記したり語ったりした「アニメ作品をつくりながら考えたこと」を一冊の書籍にまとめたものだ。

一言でいうと、自然主義というのか、リアリズムのひとだったのだろう。私たちの生活、足下の生活のなかにある豊かさを見つめるまなざしを持ったひとだった。本書を読んでそう感じた。

それは特殊な才能に恵まれた英雄によって綴られる歴史ではなく、畑を耕し、村娘に恋をし、日照りのときは涙を流し、みんなにデクノボーと呼ばれる私たちの歴史を見つめる視点だということだ。

それは私たちに対する信頼だ。

それはどの瞬間も蔑ろにするまい、という生き方の宣言だ。

誰にとってもあたりまえのこと、「生活」という言葉の中に一括りにされてしまうことのなかに、映画を発見し、しかもアニメ作品にするということは、並大抵のことではないだろうとも思った。

著者は徹底的に人間を見つめようとするまなざしの偉大さに気づかせてくれた。それは私たちオール・ヤング・凡夫スに、とても心強い生の根拠を与えてくれるものだ。私もそのようなまなざしで世界をみつめられたら、と思う。

また、何かを見たり、聞いたりしたときに、それが善いとか悪いとかすぐに判断せずに、なぜそういうふうになっているんだろう、そのように表れてきたのには何か意味があるんじゃないか、と考える姿勢の大切さにも気づかせてもらえた。

とても充実した読書体験だった。