何冊よめるかな?

本棚の肥やしと化した本たちを供養するため始めたブログ

12冊目 銀河英雄伝説10〜落日篇

田中芳樹 著『銀河英雄伝説10〜落日篇』読了

本巻の主要トピック

・ラインハルト、ヒルダと結婚

・柊館炎上

・シヴァ星域会戦

ルビンスキーの火祭り

・地球教壊滅

 ついに、「銀英伝」本伝も最終巻。物語全体を通せば、本巻はクロージングに当てられているため、8巻や9巻に比べると、やや盛り上がりにはやや欠けるかもしれない。しかし、壮大な物語を締めくくるには、本一冊分くらいは必要だろうから、ある意味、これは必然だろう。そして、そのようにみるならば、巨大な恒星が落ち、新たな希望へとつなぐ、というとても美しい締めだった。

 「銀英伝」が名作であるとはいえ、ひとりの人間が生み出した物語だから、“完璧”というわけにはいかない。私が耳にした批判では、宇宙空間の艦隊戦なのに、戦闘シーンが二次元的だ、というものがある。私も、今回読んでいて、もし民主主義の種を残すことが、いちばん大切なのだというのなら、ヤンは帝国の要職に就いて、ユリアンが目指したように、憲法を制定させる、とか他の可能性に踏み出してもいいのでは?と思うところもあった。

 でも、「いい映画は、細かいほころびが気にならないし、つまらない映画は細かいほころびばかり気になってしまうもの」という。これだけの長編を、小さなほころびが気にならないように、最初から最期まで描ききった、著者の筆力には脱帽した。

 今回、はじめて原作を通読したわけだが、旧アニメ版を初めて観たときと同等、あいはそれ以上の感動を得ることができた。というか、旧アニメ版は、かなり原作に忠実に制作されていることがよくわかった。原作のちょっと難しい表現、たとえば、「〇〇することあたわず」みたいな文語的な表現を、そのまま採用したために、旧アニメ版も、原作の持つ格調の高さを表現できていたように思う。

 何でもわかりやすくすることが優先される現在、この4月から放映される新アニメ版はどのようになるだろう。同盟の理想、帝国の格調を損なうことなく、原作や旧アニメ版を超える名作を観てみたい!とは、あまりに欲張りだろうか。ともかく、今は、楽しみでしかたない。

「ね、ユリアン、とにかくバーラト星系は民主主義の手に残るのね」

「そう」

「たったそれだけなのね、考えてみると」

「そう、たったこれだけ」

 (中略)

たったこれだけのことが実現するのに、五〇〇年の歳月と、数千億の人命が必要だったのだ。銀河連邦の末期に、市民たちが政治に倦まなかったら、ただひとりの人間に、無制限の権力を与えることがいかに危険であるか、彼らが気づいていたら。市民の権利より国家の権威が優先されるような政治体制が、どれほど多くの人を不幸にするか、過去の歴史から学びえていたら。

(中略)

「政治なんておれたちに関係ないよ」という一言は、それを発した者に対する権利剥奪の宣言である。政治は、それを蔑視した者に対して、かならず復讐するのだ。ごくわずかな想像力があれば、それがわかるはずなのに。

ユリアン、あんたは政治指導者にはならないの。ハイネセン臨時政府の代表になるとか、そういうことはないの?」

「ぼくの予定表にはないね」

「あんたの予定は、それじゃ、どうなってるの」

「軍人になって専制主義の帝国と戦う、そしてその任務が終わったら……」

「終わったら?」

カリンの問いに、直接ユリアンは答えなかった。

銀河英雄伝説 〈10〉 落日篇 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説 〈10〉 落日篇 (創元SF文庫)

 

11冊目 銀河英雄伝説9〜回天篇

田中芳樹 著『銀河英雄伝説9〜回天篇』読了

本巻の主要トピック

・ヨブ・トリューニヒト、新領土総督府高等参事官就任

・ラインハルトの求婚

・ウルヴァシー事件 〜ロイエンタール元帥叛逆事件(新領土動乱)

・第二次ランテマリオ星域会戦(双璧の争覇戦)

 銀英伝は、ラインハルトとヤンの2人を主人公に据えた物語だ。通常、物語には主人公がいて、その正反対の性質をもつ副主人公(ライバル)がいる。ラインハルトとヤンの関係も、確かに相対しているようにみえる。だが、例えるならば、ラインハルトは太陽(近づけば焼き尽くされる)、ヤンは暖炉の炎。どちらも「陽」に属す。ラインハルトに対する「陰」は、ロイエンタールが担っている。私はそのように読んでみた。「銀英伝」の中で、誰が好き?と問われれば、私は、さんざん悩んだ挙句、ヤン・ウェンリーと答えるだろう。では、誰が一番魅力的?と問われれば、梟雄オスカー・フォン・ロイエンタールと即答できる。左右の瞳の色が異なる「金銀妖瞳(ヘテロクロミア)」という、わかりやすい身体属性に象徴されるように、複雑な内面をもっていることが、その理由だ。おそらく著者も、お気に入りのキャラのひとりだったのではないか。というのも、 ここまで、多くの英雄たちが登場し、また去っていった。本巻において、ロイエンタールもまた去りゆくのだが、その去り際を、多くの紙面を割いて描いてるからだ。

  ロイエンタールという複雑な個性の最期も、単純なものではありえない。ロイエンタールの美学が存分に味わえる本巻もまた、大傑作でした。男泣き必至!

「わたしは、たしかにあなたを失いました。でも、最初からあなたがいなかったことに比べたら、わたしはずっと幸福です。あなたは何百万人もの人を殺したかもしれないけど、すくなくともわたしだけは幸福にしてくださったのよ」(フレデリカ) 

「ことばで伝わらないものが、たしかにある。だけど、それはことばを使いつくした人だけが言えることだ」

「だから、ことばというやつは、心という海に浮かんだ氷山みたいなものじゃないかな。海面から出ている部分はわずかだけど、それによって、海面下に存在する大きなものを知覚したり感じとったりすることができる」

「ことばをだいじに使いなさい、ユリアン。そうすれば、ただ沈黙しているより、多くのことをより正確に伝えられるのだからね……」(ヤン) 

「 あなた、ウォルフ、わたしはロイエンタール元帥を敬愛しています。それは、あの方があなたの親友でいらっしゃるから。でも、あの方があなたの敵におなりなら、わたしは無条件で、あの方を憎むことができます」(エヴァンゼリン)

「古代の、えらそうな奴がえらそうに言ったことがある。死ぬにあたって、幼い子供を託しえるような友人を持つことがかなえば、人生最上の幸福だ、と……ウォルフガング・ミッターマイヤーに会って、その子の将来を頼むがいい(後略)」(ロイエンタール) 

銀河英雄伝説〈9〉回天篇 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説〈9〉回天篇 (創元SF文庫)

 

10冊目 銀河英雄伝説8〜乱離篇

田中芳樹 著『銀河英雄伝説8〜乱離篇』読了

本巻の主要トピック

・回廊の戦い 

フェザーン遷都

・イゼルローン共和政府樹立

 前に、第5巻のところで、戦記物としての「銀英伝」は、最大の山場をむかえると記した。本巻では、ドラマとしての「銀英伝」のひとつの大きな山場をむかえる。 そう、ついに、あのエピソードが描かれてしまうのだ。ネタバレを特に気にしない私をして、このエピソードだけは知らずにはじめての「銀英伝」を味わいたかったと思わしめた、あのエピソードが。

 だけど、今回こうして通読していると、このエピソードが起こることが、かなり早い段階から、あちらこちらに暗示されていることに気づいた。ストーリーを知っているから、気づけたのかもしれないが、読解力のある読者なら、容易に気づいてしまうだろうというくらい、暗示の味付けは濃い。とするならば、筆者はこのエピソード自体には、あまり重きをおかなかったのかもしれない、と思った。それは、驚きの展開という飛び道具によって読者をエンターテインするのではなく、飽くまでも物語そのものを読者に問うてみるという、著者の姿勢の真摯さのあらわれのような気がした。

 『魔女の宅急便』を観ることがきらいだった。それは、主人公キキが、自分の能力を失うシーンを観るのが辛かったからだ。本巻では、それと同じ種類の辛さを数千倍した感情に襲われる。できれば、そのシーンがこなければいいと思いながら、でも、それはこの物語を描くうえで、欠くべからざる展開なのだろう。眼から熱いものをダダ漏らしながら、本巻を読みおえた。

 物語も終盤をむかえた。原作の「銀英伝」をここまで読むのは、初めてだが、アニメ版では描かれない、ト書きの部分も読めるので、物語のより深いところまで味わえるきがして、最高の読書体験が続いている。

「いいことを教えてやろうか、ユリアン

「何です?」

「この世で一番強い台詞さ。どんな正論も雄弁も、この一言にはかなわない」

「無料で教えていただけるんでしたら」

「うん、それもいい台詞だな。だが、こいつにはかなわない。つまりな、《それがどうした》、というんだ」(アッテンボローユリアン) 

「フレデリカ、ちょっと宇宙一の美男子に会ってくるよ、二週間ぐらいで還ってくる」

「気をつけていってらしてね。あ、ちょっと、髪が乱れてるわ」

「いいよ、そんなこと」

「だめです、宇宙で二番目の美男子にお会いになるんだから」(ヤン&フレデリカ)

「よせよ、痛いじゃないかね」(パトリチェフ)

「人間は主義だの思想だののためには戦わないんだよ!主義や思想を体現した人のために戦うんだ。革命のために戦うのではなくて、革命家のために戦うんだ」(アッテンボロー

「わしはいままで何度か考えたことがあった。あのとき、リップシュタット戦役でラインハルト・フォン・ローエングラムに敗北したとき、死んでいたほうがよかったのかもしないと……だが、いまはそうは思わん。六〇歳近くまで、わしは失敗を恐れる生きかたをしてきた。そうではない生きかたもあることが、ようやくわかってきたのでな、それを教えてくれた人たちに、恩なり借りなり、返さねばなるまい」(メルカッツ)

「あなたから兇報を聞いたことは幾度もあるが、今回はきわめつけだ。それほど予を失望させる権利が、あなたにはあるのか?誰も彼も、敵も味方も、皆、予をおいて行ってしまう!なぜ予のために生きつづけないのか!」(ラインハルト)

「わたくし、フレデリカ・G・ヤンは、ここに民主共和政治を支持する人々の総意にもとづいて宣言します。イゼルローン共和政府の樹立を。アーレ・ハイネセンにはじまる自由と平等と人民主権への希求、それを実現させるための戦いが、なおつづくのだということを……この不利な、不遇な状況にあって、民主共和政治の小さな芽をはぐくんでくださる皆さんに感謝します。ありがとうございます。そして、すべてが終わったときには、ありがとうございました、と、そう申しあげることができればいいと思います……」(フレデリカ)

銀河英雄伝説 〈8〉 乱離篇 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説 〈8〉 乱離篇 (創元SF文庫)

 

 

9冊目 銀河英雄伝説7〜怒濤篇

田中芳樹 著 『銀河英雄伝説7〜怒濤篇』読了

本巻の主要トピック

・ヤン艦隊、イゼルローン要塞を再奪取

・ マル・アデッタ星域会戦

・冬バラ園の勅令公布(自由惑星同盟の滅亡)

ロイエンタール、新領土総督就任

 本巻において、銀河を二分した勢力のひとつ、自由惑星同盟は、名実ともに消滅してしまう。銀河の大きな歴史が、また1ページめくられる。そして、今まで鳴りを潜めていた第三の勢力が、歴史の裏舞台で蠢動をはじめる……

 「銀英伝」の大きなテーマとして、専制政治と民主政治の対立があげられるだろう。ここまで読んでいて(これを記している時点で、9巻を読み終えており、そこまでを含めても)気づいたことがある。

 ヤンは、専制政治と民主政治、両方の長所と短所を思って、逡巡しつつも、民主主義の側に立っている。一方、ラインハルトは、専制政治の側に立って、微動だにしない。ラインハルトは、自らの政治的な選択を後悔することはあっても、それを専制政治自体の問題点と結び付けることはない。

 こういったそれぞれの「矜持」(「信念」という言葉はヤンが嫌うらしいので)が、この物語における2人の主人公の、最も際立った違いなのかもしれない。

 「皇帝ラインハルト陛下、わしはあなたの才能と器量を高く評価しているつもりだ。孫をもつなら、あなたのような人物をもちたいものだ。だが、あなたの臣下にはなれん。ヤン・ウェンリーも、あなたの友人にはなれるが、やはり臣下にはなれん。他人ごとだが保証してもよいくらいさ。なぜなら、えらそうに言わせてもらえば、民主主義とは対等の友人をつくる思想であって、主従をつくる思想ではないからだ。わしはよい友人がほしいし、誰かにとってよい友人でありたいと思う。だが、よい主君もよい臣下ももちたいとは思わない。だからこそ、あなたとおなじ旗をあおぐことはできなかったのだ。御厚意には感謝するが、いまさらあなたにこの老体は必要あるまい……民主主義に乾杯!」(ビュコック)

 「たぶん人間は自分で考えているよりもはるかに卑劣なことができるのだと思います。平和で順境にあれば、そんな自分自身を再発見せずにすむのでしょうけど……」(ヒルダ)

 吾々は軍人だ。そして民主共和政体とは、しばしば銃口から生まれる。軍事力は民主政治を産みおとしながら、その功績を誇ることは許されない。それは不公正なことではない。なぜなら民主主義とは力をもった者の自制にこそ精髄があるからだ。強者の自制を法律と機構によって制度化したのが民主主義なのだ。そして軍隊が自制しなければ、誰にも自制の必要などない。自分たち自身を基本的には否定する政治体制のために戦う。その矛盾した構造を、民主主義の軍隊は受容しなくてはならない。軍隊が政府に要求してよいのは、せいぜい年金と有給休暇をよこせ、というくらいさ。つまり労働者としての権利。それ以上はけっして許されない」(ヤン) 

銀河英雄伝説〈7〉怒涛篇 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説〈7〉怒涛篇 (創元SF文庫)

 

8冊目 銀河英雄伝説6〜飛翔篇

田中芳樹 著『銀河英雄伝説6〜飛翔篇』読了

本巻の主要トピック

・キュンメル事件

・地球教本部壊滅

・ヤンの不正逮捕(反和平活動違反疑い)〜ハイネセン脱出

・エル・ファシル独立宣言

  新生銀河帝国の宇宙統一により、しばらくは平和が保たれるかにみえた。が、様々な思惑がはたらいて、再び戦火は燃え広がろうとしていた。「人々は戦乱に疲れていたはずであった――しかし、あるいはそれ以上に、平和になれていなかったのである。」銀河の歴史はさらに加速する。

 「せっかく軍隊という牢獄から脱出しながら、結婚というべつの牢獄に志願してはいるとは、あなたも物ずきな人ですな」

「独身生活一〇年でさとりえぬことが、一週間の結婚生活でさとれるものさ。よき哲学者の誕生をきたいしよう」(シーンコップ&キャゼルヌ)

 「吾々は敵の堕落を歓迎し、それどころか促進すらしなくてはならない。情けない話じゃないか。政治とか軍事とかが悪魔の管轄に属することだとよくわかるよ。で、それを見て神は楽しむんだろうな」(ヤン)

 「戦争の九〇パーセントまでは、後世の人々があきれるような愚かな理由でおこった。残る一〇パーセントは、当時の人々でさえあきれるような、より愚かな理由でおこった……」(ヤン)

 「ヤン提督もお気の毒に。せっかく軍隊を離れて、花嫁と年金で両手に花というはずだったのにな」

「花園は盗賊に荒らされるものだし、美しい花は独占してよいものではないさ」

「あら、ありがとうございます。でも、私は独占されたいと思っているんですけど」(アッテンボロー&シェーンコップ&フレデリカ)

「何か最後の望みはおありですか、閣下」

「そうだね、ぜひ宇宙暦八七〇年ものの白ワインを飲んでから死にたい」

 たっぷり五秒ほど、大尉はヤンの言葉の意味を吟味していた。ようやく理解すると、腹をたてたような表情になる。この年はまだ七九九年なのである。

 余談だが、こうして各巻ごとに、印象に残った部分の引用をしていると、同盟側の引用ばかりが目立つ。「銀英伝」を、帝国と同盟、あるいはフェザーン、どの勢力に移入して読むかは、読者の自由だろう。こうしてみると私は、思っていた以上に同盟側への思い入れが強いらしい。帝国にも魅力的な人物は多いけれど、皮肉めいたユーモアで語られるヤン一党の会話は、とても心地よい。きっと著者も、書いていて楽しかったんじゃないだろうか。シェーンコップがとくに、ピリリといい味出してます。

銀河英雄伝説〈6〉飛翔篇 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説〈6〉飛翔篇 (創元SF文庫)

 

7冊目 わたしの本棚

中江有里 著『わたしの本棚』読了

 母の従姉妹が貸してくれた本。著者の読書体験を綴ったエッセイ。私は、以前から読書感想を、なるべく簡潔に書きたいと思っていた。だが、どう書けばいいのかわからずにいた。本書には24冊の本が取り上げられており、一冊あたりに割かれているのは、約6ページ程度。これは参考になりそうだ、と「銀英伝」を中断して読んでみることにした。(母の従姉妹に返さなければならないので、優先して読んだ)

 本書のあとがきに、以下のような文章をみつけた。

 本はすべての問題に答えてくれるわけじゃない。人それぞれ抱えている問題は違うのだから、万人に読まれても、解釈が違うのは当たり前。答えを本の中身に見いだしているのは、いつも読む側だ。

 (中略)

 だけどこうも思う。

 たとえ誤読だったとしても、独自の解釈であったとしても、その本が自分を支え励ましてくれたのは事実だ。それでいいじゃないか。

 すべての本が、「自分を支え励ましてくれる」ものなのか、私にはわからない。ただ、同じ本を読んでも、読み手ごとに、独自の解釈が為されるというのは、本当にそのとおりだと思う。

 私は、「頭のいい人」が好きだ。それは、お勉強ができる、とか、難しいとこを知っている、という意味ではない。私が思う「頭の良さ」とは、自分の考えていることを、他者にわかるように言語化できること、だ。

 読書は孤独な作業だ。それにしても、十分豊かな作業ではあるが、その先に、さらに自分には到達し得ない地平、すなわち、「あなたの解釈」という沃野が広がっていることを思うと、その豊かさは計り知れない。

 同じ本を読んでも、それぞれの解釈は異なる。あなたはどう読んだのか。それを知りたいと思う。私はどう読んだのか。それを伝えたいと思う。伝えるには、言葉にしなくてはならない。

  私の解釈など、取るに足りないものだけど、「あなたの解釈」と照らし合わせるチャンスが来た時のためにも、私は「私の解釈」を言語化できるくらいには、「頭の良い」読者でありたい。

 そんなことを思わせてくれた一冊だった。

わたしの本棚

わたしの本棚

 

6冊目 銀河英雄伝説5〜風雲篇

田中芳樹著『銀河英雄伝説6〜風雲篇』読了

本巻の主要トピック

・ランテマリオ星域会戦

・バーミリオン星域会戦(ヤンの求婚)

・バーラトの和約

・ローエングラム王朝の樹立

 戦記物としての本書は、この巻で最大の山場を迎える。約2世紀に亘って続いた、銀河帝国自由惑星同盟の争いに終止符が打たれる。 最後の決戦に際して、登場人物たちが、自らの思想信条を語るシーンが印象的な巻。

 戦いは同盟側の敗北によって終わる。でも、物語はまだまだ半ば。次巻以降も読者に人心地つかせる間もなく、物語はますます加速してゆく。

「わしに誇りがあるとすれば、民主共和政において軍人であったということだ。わしは、帝国の非民主的な政治体制に対抗するという口実で、同盟の体制が非民主化することを容認する気はない。同盟は独裁国となって存続するより、民主国家として滅びるべきだろう(中略)わしはかなり過激なことを言っておるようだな。だが、実際、建国の理念と市民の生命とがまもられないなら、国家それじたいに生存すべき理由などはありはせんのだよ。で、わしとしては、建国の理念、つまり民主政治と、市民の生命をまもるために戦おうと思っておるのさ」(ビュコック) 

  「ヤン提督にはなによりもまず政治的野心がない。政治の才能もないかもしれない。だが、ヨブ・トリューニヒトのように国家を私物化し、政治をアクセサリーにし、自分に期待した市民を裏切るようなまねは、ヤン提督にはできんだろう。ヤン提督の能力は、歴史上の大政治家たちに比較すれば、とるにたりないものかもしれんが、この際、比較の対象はヨブ・トリューニヒトひとりでいいんだ」

「そう思います。ぼくもそう思います。でも、トリューニヒト議長は市民多数の意思で元首にえらばれたんです。それが錯覚であったとしても。その錯覚を是正するのは、どんなに時間がかかっても、市民自身でなくてはいけないんです。職業軍人が武力によって市民の誤りを正そうとしてはいけないんです」(シェーンコップ&ユリアン) 

「(前略)では、専制政治も同じことではないのか。ときに暴君が出現するからといって、強力な指導性をもつ政治の功を否定することはできまい」

「私にはできます」

「どのようにだ?」

「人民を害する権利は、人民自身にしかないからです。言いかえますと、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウム、またそれよりはるかに小者ながらヨブ・トリューニヒトなどを政権につけたのは、たしかに人民自身の責任です。他人を責めようがありません。まさに肝腎なのはその点であって、専制政治の罪とは、人民が政治の害悪を他人のせいにできるという点につきるのです。その罪の大きさにくらべれば、一〇〇人の名君の善政もの功も小さなものです。」(ラインハルト&ヤン)

銀河英雄伝説〈5〉風雲篇 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説〈5〉風雲篇 (創元SF文庫)

 

5冊目 占星術殺人事件 改訂完全版 ※ネタバレあり

占星術殺人事件 改訂完全版』 島田荘司 著、読了 

 先日、急に身内の付き添いで病院に行くことになった。病院に行くときは、待たされるのが常であるため、必ず本を一冊持っていくのだが、このときは、ほんとうに急だったので、カバンに本を入れ忘れてしまった。案の定、かなり待たされる羽目になりそうだったため、病院の売店で、本を買うことにした。品揃えにはあまり期待していなかったものの、本書を見つけたので、即購入。本書については、居島一平氏が、トークライブの中で触れており、いつか読んでみたいと思っていたからである。(なので、「銀英伝」は、ちょっとおやすみになってしまった)

【あらすじ】ある画家が殺された。彼は6人の女性の身体から、それぞれ一部分づつを切り取って、「完全な肉体」を持つひとりの女性(アゾート)を創作しようと計画していた。 彼の死後、娘たちが、次々と身体の一部分を失った死体として発見される。猟奇的な計画をたてた画家はすでに死んでいる。では、誰が……

 私は、ふだんほとんどミステリーを読まないので、自分で謎を解こうなんて思って読んでいはいなかった。でも、複数の遺体を組み合わせることで、5人の遺体を6人分に見せかけることができるんじゃないの?と漠然と思いながら読んでいた。そしたら、その通りのトリックだったので、驚いてしまった。当然、細かいトリックがすべて解けたというわけではないし、まぁ、これはビギナーズ・ラックというか、ミステリーのいろはを知らないがゆえに、かえってミス・ダイレクションにはまらずに済んだため、正解に近づけたのだと思う。

 そんなことより、(たぶんまちがっていると思うが)「ローラーコースター・リーディング」というのだったか、とにかく、いちど読み始めたら、ページをめくる手が止まらなくなる、という読書体験を、久しぶりにした。最初、画家の遺した猟奇的な殺人計画が示されるのだが、そこで占星術に関する理論が展開され、彼が自分の計画の正当性を主張する部分は、特に面白く読めた。このあと、どんな物語が展開するのだろう、とドキドキ、ワクワクしながら、逸る気持ちを抑えつつ、一行一行を読んでいく、というのは、あるいは、はじめての体験だったかもしれない。普段は、読んんでは立ち止まり、あれこれ考えたりするのが、好きだったりもするものだから。そういう意味で、とても新鮮な読書体験ができた一冊だった。

占星術殺人事件 改訂完全版 (講談社文庫)
 

4冊目 銀河英雄伝説4〜策謀篇

銀河英雄伝説4〜策謀篇』 田中芳樹 著、読了

本巻の主要トピック

銀河帝国正統政府樹立(エルウィン・ヨーゼフⅡの亡命)

・「神々の黄昏」作戦発動(イゼルローン攻防戦〜フェザーン占領) 

  原作を読んでいて、気になったシーンがあると、アニメ版ではどう描かれていたのか、ときどき比較しながら読み進めるのが、ひとつの楽しみになってきた。それで気づいたのだが、「銀英伝」にどハマりする原因となったシーン、それが実はアニメオリジナルだったらしい。

 そのシーンとは、ヤンが人間と他の生物との違いについて語るシーンだ。本巻ではなく、第3巻に収められているので、前回のブログで取り上げるべきだったが、失念していた。

 それまで私が知っている「人間の定義」では、“言葉を持つ”とか“道具を使う”とかいったものが代表的だった。他には、“遊ぶ”とか“笑う”などがあった。確かに、それらは人間に特徴的なものかもしれない。だが、そういったものの原始的な萌芽は、すでに他の生物にもみられるだろう。イルカやシャチなどは、鳴き声によるコミュニケーションで、かなり高度な集団行動を行うし、ある種のトリやサルは、道具を駆使して、エサを獲得したりする。そう考えると、ヒトと動物を線引する定義としては、いささか切れ味に欠ける気がしないでもない。そんな思いを、長年抱えていたのだが、件のシーンによって、そのモヤモヤが解消した。

 アニメ版 本編 35話より

生物は子孫に遺伝子を伝えることでしか、ながい時の流れの中で己の存在を主張することはできない。だが人間だけが歴史をもっている。歴史をもつことが人類を他の生物とちがう存在にしているんだ。だから私は歴史家になりたかったんだ(ヤン) 

  確かに、人間以外の生物で歴史をもっている生物は見当たらない。歴史らしきものをもっている生物も、すぐには思い浮かばない。この定義は、なかなかいい気がする。しっくりくる。しかし、それは私がものを知らなさ過ぎるだけで、歴史あるいは歴史らしきものをもつ生物が、すでにいるのかもしれない。それはそれとして、具体的な反証に出会うまでは、私の中では、「歴史をもつ生物」というのが、暫定的な「人間の定義」としておきたい。

アニメには、時間的制約があるため、原作そのままを再現できるわけではないから、このシーンの、この台詞が、別の巻で登場するかもしれない。でも、今のところ、アニメにしか登場していないことから考えると、「銀英伝」は、原作もアニメもそれぞれに味わわなければ、味わい尽くすことができないということだ。それはすなわち、二度楽しめるということでわないか!!!(マンガ版もあり、しかも複数の漫画家によって描かれているので、それらを含めれば、三度、四度と楽しめます!!!!)

 「独裁者という名のカクテルをつくるには、たくさんのエッセンスが必要でね。独善的でもいいからゆるぎない信念と使命感、自己の正義を最大限に表現する能力、敵対者を自己の敵ではなく正義の敵とみなす主観の強さ、そういったものだが…(以下略)」(ホワン) 

「どれほど非現実的な人間でも、本気で不老不死を信じたりはしないのに、こと国家となると、永遠にして不滅のものだと思いこんでいる“あほう”な奴らがけっこう多いのは不思議なことだとは思わないか」(ヤン)

 軍事が政治の不毛をおぎなうことはできない。それは歴史上の事実であり、政治の水準において劣悪な国家が最終的な軍事的成功をおさめた例はない。強大な征服者は、その前にかならず有為の政治家だった。政治は軍事上の失敗をつぐなうことができる。だが、その逆は真でありえない。軍事とは政治の一部分、しかももっとも獰猛でもっとも非文明的でもっとも拙劣な一部分でしかないのだ。その事実を認めず、軍事力を万能の霊薬のように思いこむのは、無能な政治家と、傲慢な軍人と、彼らの精神的奴隷となった人々だけなのである。

銀河英雄伝説〈4〉策謀篇 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説〈4〉策謀篇 (創元SF文庫)

 

3冊目 銀河英雄伝説3〜雌伏篇

銀河英雄伝説3〜雌伏篇』 田中芳樹 著、読了

 本巻の主要トピック

・イゼルローン回廊遭遇戦(ユリアンの初陣)

・ヤン、査問会議にかけられる

・第8次イゼルローン攻防戦(ガイエスブルグ要塞ワープアウト) 

  相変わらず、とてもおもしろい。読んでいる間、ずーっとエンターテインされている感じ。ありきたりな感想だが、こんな物語を記せるなんて、著者の頭はどうなっているのだろう。とつい思ってしまう。歴史に造詣が深いということは、読んでいてひしひしと感じる。近年、私も歴史に興味を持つようになったから、そういう面白さも加わって、以前にもまして、この物語りに没入できるようになった気がする。

「三〇歳をすぎて独身だなんて、許しがたい反社会的行為だと思わんか」

「生涯、独身で社会に貢献した人物はいくらでもいますよ。四、五〇〇人リストアップしてみましょうか」

「おれは、家庭をもったうえに社会に貢献した人間を、もっと多く知っているよ」(キャゼルヌ、ヤン)

「……国防には二種類の途がある。相手国より強大な軍備を保有することが、その一であり、その二は、平和的手段によって相手国を“無害”化することである。前者は単純で、しかも権力者にとって魅力的な方法であるが、軍備の増強が経済発展と反比例の関係にあることは、近代社会が形成されて以来の法則である。自国の軍備増強は、相手国においても同様の事態をまねき、ついには、経済と社会のいちじるしい軍備偏重の畸型化が極限に達し、国家そのものが崩壊する。こうして、国防の意思が国家を滅亡させるという、歴史上、普遍的なアイロニーが生まれる……(中略)……古来、多くの国が外敵の侵略によって滅亡したといわれる。しかし、ここで注意すべきは、より多くの国が、侵略に対する反撃、富の分配の不公平、権力機構の腐敗、言論・思想の弾圧にたいする国民の不満などの内的要因によって滅亡した、という事実である。社会的不公平を放置して、いたずらに軍備を増強し、その力を、内にたいしては国民の弾圧、外にたいしては侵略というかたちで濫用するとき、その国は滅亡への途上にある。これは歴史上、証明可能な事実である。近代国家の成立以降、不法な侵略行為は、侵略された側でなく、じつに侵略した側の敗北と滅亡を、かならずまねいている。侵略は道義以前に、成功率のうえからもさけるべきものである……」(ヤンの著述)

「いいか、柄にもないことを考えるな。国をまもろうなんて、よけいなことを考えるな!片思いの、きれいなあの娘のことだけを考えろ。生きてあの娘の笑顔を見たいと願え。そうすりゃ嫉み深い神さまにはきらわれても、気のいい悪魔がまもってくれる。わかったか!」(ポプラン)

「権力は一代かぎりのもので、それは譲られるべきものではない、奪われるべきものだ(中略)私の跡を継ぐのは、私とおなじか、それ以上の能力をもつ人間だ。そして、それは、なにも私が死んだあととはかぎらない……」(ラインハルト)

「ホットパンチをつくりましょう。ワインに蜂蜜とレモンをいれて、お湯で割って。風邪にはいちばんですよ」

「蜂蜜とレモンとお湯を抜いてくれ」

「だめです!」

「たいしたちがいはないじゃないか」

「じゃ、いっそ、ワインを抜きましょうね」(ユリアン、ヤン)

銀河英雄伝説〈3〉雌伏篇 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説〈3〉雌伏篇 (創元SF文庫)