何冊よめるかな?

本棚の肥やしと化した本たちを供養するため始めたブログ

2018年の14冊目 生物から見た世界

『生物から見た世界』 ユクスキュル/クリサート 著 日高敏隆/羽田節子 訳、読了

 今年1月、師匠が亡くなった。師匠は大変な読書家で、3日に一冊というペースで読書をしておられた。弟子のなかでは、比較的読書をする方だった私には、いつも本の話をしてくれた。修行を終え、師匠の下を離れたあとも、ときどき、おもしろい本があると、紹介してくれた。ただ、師匠が読む本の多くは、難解な哲学書などで、紹介してもらっても、私には歯が立たないものも多く、課題図書は溜まってゆく一方だった。しかし、師匠がご逝去されたことを契機に、逃げずに課題図書に取り組もうと思う。 本書も師匠が紹介してくれた、いわゆるひとつの課題図書である。

 本書は「環世界」について書かれた本だ。「環世界」とはなにか。訳者あとがきに端的に示されている。

「環境」はある主体のまわりに単に存在しているもの(Umgebung)であるが、「環世界」はそれとは異なって、その主体が意味を与えて構築した世界(Umwelt)なのだ 

  私たちは客観的な「環境」(「自然」や「世界」と言ってもいい)のなかに、他の生物や植物をはじめ、あらゆる物体・物質と等価に置かれている、という素朴な世界観をもっているかもしれない。自然科学では、そのような客観的な環境(自然、世界)を扱うことが前提だ。

 だが、私たちは、本当はそういう客観的な環境になかに生きているのではない。環境に対して、主観的な意味付けをした独自の世界=環世界を生きている、というのがユクスキュルの視点だ。

 たしかに、納豆嫌いの私の世界には、スーパーマーケットの納豆売り場は、ほぼ存在しない場所だが、納豆がたまらなく好きな人には、スーパーマーケットの中でも、スポットライトで照らされた場所に見えるだろう。

 本書は、そのタイトルどうり生物学の本だろうし、著者も生物学者(動物学者)だ。しかし、その内容は、とても哲学的なものだ。実際、本書は、哲学の領域で取り上げられることも多いし、カントの「物自体」という概念にも関わってくる概念のように思えた。

 私はこの手の話が好きだし、興味があるので、本書は私の環世界のなかで、「とてもおもしろい本」という意味付けがなされた一冊となった。そんなに難解ではないし、「独我論」をテーマに卒論を書いていた頃の私に、もし出会えるなら、ぜひ紹介してあげたい一冊だった。

生物から見た世界 (岩波文庫)

生物から見た世界 (岩波文庫)