何冊よめるかな?

本棚の肥やしと化した本たちを供養するため始めたブログ

2018-40 悪について

中島義道著『悪について』読了

私にはひとに誇れるような才能は何もない。だが、強いて挙げるとすれば、(こどものころは)哲学的センスだけはあったと言えるかもしれない。

「哲学とはなにか」という問い自体が哲学になりうるほど、この学問を一言で言い表すことは難しいが、「みんなから当たり前に思われていること不思議さに気づくこと」と言っても大きな間違いにはならないように思う。本当は「気づいた後にその不思議さについて徹底的に考え抜くこと」も付記しておかなければならないが、この点に関しては私には全く備わっていない才能なので、ここでは割愛しておこう。

哲学科の授業で、複数の教員から異口同音に「夢の話はしてはいけない」と言われた。どんなにおもしろい夢を見たとしても、それに興味があるのは夢をみた本人だけで、それを聞かされる側にとっては苦痛以外の何物でもない。そして「哲学の諸問題も夢の話と同じだ」というのだ。それが当人にとってどんなに大問題だとしても、大多数のひとにとっては当たり前のことでしかない。彼らはそんな話を聞かされても苦痛以外の何物でもない。

本書はまさにそんな「夢の話」だ。だが、同じ夢を見た私にとってはめちゃくちゃおもしろい話だった。

こどものころ、ヒーローが世界を危機から救った後に、世界中の人から感謝されて、もし、うれしいと感じたとしたら、それは僕たちのためにではなくて、人々から感謝されるためだったということにならないの?と思っていたが、本書はまさにそのような問題についてカント倫理学を基に光を当てている。

こうしたことが問題になると思わないひと、ただの屁理屈にしか思えないひとには、本書はゴミ屑ほどの価値しか持たないかもしれない。しかし、著者と「同じ夢」をみた私にとっては豊かに実った黄金の果実のように貴重な読書体験をもたらしてくれた。

悪について (岩波新書)

悪について (岩波新書)