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本棚の肥やしと化した本たちを供養するため始めたブログ

2018-27 がん哲学外来へようこそ

樋野興夫 著『がん哲学外来へようこそ』読了 

母に膀胱がんが見つかった。死に至る病であるがんとどう向き合えばいいのか。そんなヒントを求めて、本書を手にとった。前回の立花隆 著『がん〜生と死の謎に挑む』の中で著者のことを知った。

これは新潮新書全般に言えることかも知れないが、内容はごくごく一般の読者に向けられたものだった。読んでいて心が軽くなるような、著者の患者に対する温かいまなざしは伝わってきた。だが、少し物足りなさも感じた。

この物足りなさは「がん哲学」というネーミングに起因するものかも知れない。ここでの「哲学」は「人生訓」や「考え方」という意味合いが強いだろう。それは一般的な「哲学」のイメージで、哲学者の本格的なそれとは異質なものだ。

ただ、本書においては「哲学」とは「人生訓」や「生き方」というライトな意味でいいのかも知れない。「がんと診断されると、それまでに培った経験則や哲学なんて吹っ飛んでしまうものです」と著者は言う。それは本当にそのとおりだと思う。

「死」が現実味を帯びてきたとき、世界の見え方は一変する。しかし、その変化はおそらくどのような哲学によってもシュミレーションできるものではない。当事者以外にとっては、その変化はフィクションでしかないからだ。フィクションに意味がないとは思わない。ただ、「死」に関してだけは「リアルよりリアリティ」という甲本ヒロトの名言も敵わないだろう、とも思うのだ。

本書の趣旨を一言でいうと、がんと診断されても、それで人生が終わるわけではない。死の瞬間まで生は続いている。その瞬間までどう生きるかを問うのが、がんという病だということだ。今回、母を通じて、自分のことのようにがんという病をシュミレーションしたわけだが、いざ自分のことになったとき、私はどのように動揺し、受容するのだろうか。そんなことに思いを馳せた。

がん哲学外来へようこそ (新潮新書)

がん哲学外来へようこそ (新潮新書)