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本棚の肥やしと化した本たちを供養するため始めたブログ

2018-20 おもいでエマノン

梶尾真治 著(鶴田謙二 イラスト)『おもいでエマノン』読了

 私は漫画やアニメ、映画、音楽などが好きだ。私と同様の趣味を持っている親戚がいる。先日、そのひとから、私の好みに合いそうだいうことで、『おもいでエマノン』という漫画を紹介してもらった。読んでみて、とてもすばらしかった。そして、この漫画には、原作があるらしいことを知ったので、早速、読んでみよう、と本書を手に取った。

 本書は、同名の短編「おもいでエマノン」を含む、8編の短編からなる連作小説だ。この8編すべてに、ジーンズに粗編みのセーター、長髪でそばかすのある、異国的な顔立ちの「エマノン」という美少女が登場する。

 彼女は母親の記憶を受け継いでいる。彼女の母親は、そのまた母親の記憶を受け継いでいる。そして、それは地球に誕生した初めての生命まで遡ることができる。つまり、彼女は、地球上に生命が誕生してから、三十数億年の記憶を持っていることになる。

 要するに、これはSF作品なのだが、「おもいでエマノン」は、いわゆるSFチックな感じではなく、とても文学的な情緒が感じられる短編だった。

 だが、「おもいでエマノン」以外の7篇は、私には、長い蛇足のように感じられた。この感想は、あながち的外れではないかもしれない。本書の巻末に著者と、イラストを手がけた鶴田謙二との対談が載っている。その中で、「僕としては続編を書くつもりはなかったんです。「おもいでエマノン」は、あれで完結しているんで」と、著者自身が語っているからだ。

 「おもいでエマノン」では、生命が誕生して以来の記憶を宿したエマノンだけが特殊な存在として描かれている。彼女以外の人たちは、私たちと同じごく普通の人間だ。だからこそ、エマノンという存在が本当か否かといった、ミステリアスな雰囲気が味わえる。

 ところが、「おもいでエマノン」と「ゆきずりアムネジア」を除く6編には、彼女と同等の特殊能力を持っている人物たちが登場する。

 エマノンの血液を輸血されたために、エマノンと同じ記憶を得た少年。脅威の再生能力を持ち、人の心を読める少年。地球上の生命に進化を促した地球外生命体。エマノンと真逆で、未来の記憶を持った青年。エマノンが動物の記憶を受け継いできたのと同様に、地球に誕生して以来の植物の記憶を受け継いできたアイオンという名の植物。生物を絶滅する危機から救うために時を跳躍することのできる少女。

 彼らが登場した瞬間、物語はSF的になってしまう。「おもいでエマノン」を読み終えたときには、私たちの日常の中に、もしかしたらエマノンがいるかもしれない。そんな気にさせられる。だが、「おもいでエマノン」(と「ゆきずりアムネジア」)以外の短編では、初めから作り話のように感じられ、物語に没入出来なかった。要するに、「おもいでエマノン」とその他の短編では、リアリティ・ラインがあまりにも違いすぎているように思えた。

 もし、エマノンシリーズとしてではなく、それぞれ独立の物語として書かれた短編集だったら、こんなに印象が悪くなかったと思う。それぞれのお話のアイデアは、とても興味深いものだったからだ。つまり、「おもいでエマノン」が、それだけ完成された短編だったということなのです。

おもいでエマノン (徳間文庫)

おもいでエマノン (徳間文庫)