何冊よめるかな?

本棚の肥やしと化した本たちを供養するため始めたブログ

10冊目 銀河英雄伝説8〜乱離篇

田中芳樹 著『銀河英雄伝説8〜乱離篇』読了

本巻の主要トピック

・回廊の戦い 

フェザーン遷都

・イゼルローン共和政府樹立

 前に、第5巻のところで、戦記物としての「銀英伝」は、最大の山場をむかえると記した。本巻では、ドラマとしての「銀英伝」のひとつの大きな山場をむかえる。 そう、ついに、あのエピソードが描かれてしまうのだ。ネタバレを特に気にしない私をして、このエピソードだけは知らずにはじめての「銀英伝」を味わいたかったと思わしめた、あのエピソードが。

 だけど、今回こうして通読していると、このエピソードが起こることが、かなり早い段階から、あちらこちらに暗示されていることに気づいた。ストーリーを知っているから、気づけたのかもしれないが、読解力のある読者なら、容易に気づいてしまうだろうというくらい、暗示の味付けは濃い。とするならば、筆者はこのエピソード自体には、あまり重きをおかなかったのかもしれない、と思った。それは、驚きの展開という飛び道具によって読者をエンターテインするのではなく、飽くまでも物語そのものを読者に問うてみるという、著者の姿勢の真摯さのあらわれのような気がした。

 『魔女の宅急便』を観ることがきらいだった。それは、主人公キキが、自分の能力を失うシーンを観るのが辛かったからだ。本巻では、それと同じ種類の辛さを数千倍した感情に襲われる。できれば、そのシーンがこなければいいと思いながら、でも、それはこの物語を描くうえで、欠くべからざる展開なのだろう。眼から熱いものをダダ漏らしながら、本巻を読みおえた。

 物語も終盤をむかえた。原作の「銀英伝」をここまで読むのは、初めてだが、アニメ版では描かれない、ト書きの部分も読めるので、物語のより深いところまで味わえるきがして、最高の読書体験が続いている。

「いいことを教えてやろうか、ユリアン

「何です?」

「この世で一番強い台詞さ。どんな正論も雄弁も、この一言にはかなわない」

「無料で教えていただけるんでしたら」

「うん、それもいい台詞だな。だが、こいつにはかなわない。つまりな、《それがどうした》、というんだ」(アッテンボローユリアン) 

「フレデリカ、ちょっと宇宙一の美男子に会ってくるよ、二週間ぐらいで還ってくる」

「気をつけていってらしてね。あ、ちょっと、髪が乱れてるわ」

「いいよ、そんなこと」

「だめです、宇宙で二番目の美男子にお会いになるんだから」(ヤン&フレデリカ)

「よせよ、痛いじゃないかね」(パトリチェフ)

「人間は主義だの思想だののためには戦わないんだよ!主義や思想を体現した人のために戦うんだ。革命のために戦うのではなくて、革命家のために戦うんだ」(アッテンボロー

「わしはいままで何度か考えたことがあった。あのとき、リップシュタット戦役でラインハルト・フォン・ローエングラムに敗北したとき、死んでいたほうがよかったのかもしないと……だが、いまはそうは思わん。六〇歳近くまで、わしは失敗を恐れる生きかたをしてきた。そうではない生きかたもあることが、ようやくわかってきたのでな、それを教えてくれた人たちに、恩なり借りなり、返さねばなるまい」(メルカッツ)

「あなたから兇報を聞いたことは幾度もあるが、今回はきわめつけだ。それほど予を失望させる権利が、あなたにはあるのか?誰も彼も、敵も味方も、皆、予をおいて行ってしまう!なぜ予のために生きつづけないのか!」(ラインハルト)

「わたくし、フレデリカ・G・ヤンは、ここに民主共和政治を支持する人々の総意にもとづいて宣言します。イゼルローン共和政府の樹立を。アーレ・ハイネセンにはじまる自由と平等と人民主権への希求、それを実現させるための戦いが、なおつづくのだということを……この不利な、不遇な状況にあって、民主共和政治の小さな芽をはぐくんでくださる皆さんに感謝します。ありがとうございます。そして、すべてが終わったときには、ありがとうございました、と、そう申しあげることができればいいと思います……」(フレデリカ)

銀河英雄伝説 〈8〉 乱離篇 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説 〈8〉 乱離篇 (創元SF文庫)