5冊目 この世界の片隅に
先週末、高熱を出し、療養している床の中で読んだ。
私は悪い意味でのニヒリストだ。人間なんてチッポケで、弱っぽしくて、愚かで、醜い生き物だ。世界は生きるに値するなんて思えない。
でも、ときどき「作品」を通して、ニーチェが言ったような瞬間に出会うことがある。その瞬間を味わうことができるなら、どんなにみすぼらしい人生であっても、もう一度繰り返しても構わないと思えるような瞬間に。
「こんなにもチッポケで、弱っぽしくて、愚かで、醜い人間が、どうしてこんなにも美しいことを考えることができるのだろう、こんなにも美しいものを生み出すことができるのだろう」
そういう感動が得られたとき、少なくとも、その感動を得ている瞬間だけは、私は私自身を含めた世界というものを、何のわだかまりも、欺瞞もなく肯定できる。
「時間よ止まれ!汝は美しい!」と言いうる。
本書は久々にそういう瞬間を与えてくれた。
左手で描いた(と思われる)左手で描いたような背景、冒頭と終末に現れる怪物で挟まれた物語の構造、登場人物たちの台詞の選び方などなど。物語の細部まで考え抜いて作品を作っていることが伝わってくる。あとがきに至るまで血が通っていることが伝わってくる。そういう創作意識をもって創作を続けてくれるひとが居てくれる。そのことが、病床のなかの私には、とてもありがたく、とても励みになった。
『夕凪の街 桜の国』以来、著者の作品は読んだことがなかったが、にわかに他の作品も気になってきた。今後、大切に読ませていただきたいと思う。
生きとろうが 死んどろうが
もう会えん人が居って ものがあって
うちしか持っとらんそれの記憶がある
うちはその記憶の器として
この世界に在り続けるしかないんですよね
あんた…ようこの広島で生きとってくれんさったね